クェトル&エアリアル『霹靂の晴天』#2

(2)


 用があって職人街を歩いていると見覚えのあるヤツがいた。ボンだ。

 でも何だか様子が変だ。コソコソと物陰から何かを窺ってるようだ。

 ボンに気づかれないようにコッソリとその背後に回ってやる。

「何してんだ」

「うわわっ!」
 肩をいきなり叩いてやるとボンは飛び上がって驚いた。

「な、何だ、キミか!おどかすなよ!」

「何してんだよ。すごい驚きようだな。やましいから驚くんだろ」

「別に悪いことなんてしてないヨ!」
 首をブンブン横に振って大否定する。何だかあやしい。

 ボンが窺っていたほうをマネして窺ってみる。

 見ていたのは金細工の職人の店だ。店の前で女がていねいに掃き掃除をしている。

 ボンのヤツ、この高級な金の装飾品でも盗むつもりなのか?

「お前、あれを盗ろうと思ってんのか?人の物を盗るなんて最低だぞ!」

「えっ?!人のモノなのか?」

 何言ってやがんだ、この馬鹿は!道徳心がないのか?

「当たり前だろ!盗って売りさばいたりしてカネにでもするつもりなんだろうけど、最低だ」

「キミこそ何てこと言うんだよ!売りさばくだって?!オレ、そんなことしないよ!一生大切にするつもりサ」
 ボンは食ってかかってきた。

 店に並んでいるのは女物の髪飾りだ。…こいつ、女装のシュミでもあんのかよ。

「お前、あんなもん大切にするって、シュミ悪いな」

「ひどいこと言うなよ!オレがどんな想いでいつもながめているか…人の気も知らないで!バカ!」

「なに怒ってんだよ。逆ギレかよ」

「キミこそ何だヨ!オレのいとしいヒトなのに!」

「…人?盗りたいのは金細工じゃないのか??」

「金細工?オレが見てるのは、あのヒトだヨ…」
 ボンはモジモジしながら遠慮がちに店のほうを指差した。

 そこにいる人といえば、さっきの店番の女しかいない。

「あの店番してる女のヤツか?」

「わぁ!恥ずかしいじゃんか!」
 ボンは耳まで赤くして照れる。

「いつもここから見てんのか?」

「うん…美しい高嶺の花サ。オレの麗しい天使だよ」
 ったく、気持ちが悪い!いつも陰からコソコソ覗いてるなんて。ハッキリしろってんだ。

「じゃあ、うじうじしてねぇで男らしく、直接、気持ちを伝えちゃどうだ?」

「ととと、とんでもない!!近づくなんて恐れ多いッ!」

 もどかしくなってボンの腕を引っつかむ。

「ちょ、ちょ、ちょっと!ダメだヨ!遠慮しとくよ!やだッ!」

「イイから来い!」
 必死に抵抗するボンをそのまま店の前へと引きずる。

「行け!」
 かけ声と共にボンを女のほうへ向けて突き飛ばしてやった。

「きゃあッ」
 手加減なく突き飛ばしたもんだから、ボンは店の前にいた女もろともひっくり返った。しかも、おおいかぶさる形で。そりゃ、女も驚くだろ。

「ご、ゴメンよ。友だちが突き飛ばしたから。ケガはない?」
 ボンは、ひっくり返った女の肩を抱くようにして座らせ、いたわる。こいつ、何だかんだ言って、けっこうやるくせに。

「え、ええ…大丈夫よ」

「ゴメンね」

 何だか俺が悪者にされてるみたいだけど、まあイイか。

 二人は立ち上がった。女はボンよりも背が高い。つか、歳も上そうだ。長い金髪で、優しそうな美人だ。服装も雰囲気も儚げで、ちょっとお嬢様っぽい。


 俺は邪魔そうだから、そっと帰ることにした。




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