(3)
「ごめんくださ〜い」
玄関を開けて入ってきたヤツがいた。たまたま玄関の土間にいた俺は来客に振り返った。
ボンだ。見覚えのある茶色いクセ毛の暑苦しい男が立っていた。
俺の顔を見て、片手を挙げてヨッとあいさつをしながら後ろ手に戸を閉めた。
「何しに来た」
「何って…頼み事があるんだヨ」
俺はボンをジッと見据えた。
「そんな怖い顔すんなヨ。今日は不機嫌なのか?実はサ、協力してほしいんだよ」
俺は表戸の正面の上がり口に腰かけた。
ボンは土間の隅にあった丸イスを見つけて勝手に座る。
「あのサ、この前、オレ、彫金屋の娘さんに告白したろ?」
「ああ」
「あの娘さん…名前はルシアっていうんだけど、実はね…オレとデートしてくれるんだってサ!」
「そうか」
俺はサンの爪とぎ跡のギザギザになった柱を撫でながら生返事をした。内容がどうというより、今は誰とも話したくない気分だった。
「うん!でサ、彼女、強い男が好きなんだって」
ボンの言葉に対して俺は適当にうなずいた。
目の前のヤツの言ってることより、昨日の出来事ばかりが頭を回っていた。
昨日の晩、じっちゃんとしゃべってた時、いきなり父さんに平手打ちにされたことが尾を引いている。頬に走った熱い衝撃を今でも忘れられない。
突然だった。父さんに頬を叩かれて、驚いて父さんの顔を見上げると、「馬鹿者。男は笑うな」と、冷たい顔で言われた。見たことがないような冷たい表情だった。
今までは厳しいながらも冷たくはなかったのに。
「なぁ、聞いてるのか?」
「…え?…ああ」
返事をしたものの、ボンの話なんて聞いてなかった。
ボンの顔を見る。
「も〜、聞いてなかったのかよ。あのサ、キミに暴漢役をしてもらいたいんだ」
ボンがそう言った時、じっちゃんが廊下の奥から出てきた気配がした。
「面白そうな話してるなぁ!ワシにもやらせなよ」
じっちゃんは座る俺をまたいで土間へ下りて草履をつっかける。
ボンは同時に立ち上がって頭を下げる。
「こんにちは!お邪魔してます。…えーと、クェトルのお父さんかナ?」
「お父さん?わははは!お父さんか!ワシはじいちゃんだよ。え?ワシ、そんなに若く見える?十二の息子がいそう?やだなぁ、まいったなぁ!あははは!」
じっちゃんは笑いながらボンの背中をバンバン叩く。
じっちゃんは若いと言われるのが一番好きだ。実際、周りの六十過ぎの爺さんなんかと比べても、じっちゃんは若い。五十にも見えないくらいだ。
「よし、ワシが作戦を練ってやるからな」
じっちゃんはすでにヤル気まんまんだ。
「わぁ、お願いしますヨ」
ボンもやらせる気まんまんだ。
俺は協力する気はないのに、勝手に話は進んでゆく。 ⇒
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「ごめんくださ〜い」
玄関を開けて入ってきたヤツがいた。たまたま玄関の土間にいた俺は来客に振り返った。
ボンだ。見覚えのある茶色いクセ毛の暑苦しい男が立っていた。
俺の顔を見て、片手を挙げてヨッとあいさつをしながら後ろ手に戸を閉めた。
「何しに来た」
「何って…頼み事があるんだヨ」
俺はボンをジッと見据えた。
「そんな怖い顔すんなヨ。今日は不機嫌なのか?実はサ、協力してほしいんだよ」
俺は表戸の正面の上がり口に腰かけた。
ボンは土間の隅にあった丸イスを見つけて勝手に座る。
「あのサ、この前、オレ、彫金屋の娘さんに告白したろ?」
「ああ」
「あの娘さん…名前はルシアっていうんだけど、実はね…オレとデートしてくれるんだってサ!」
「そうか」
俺はサンの爪とぎ跡のギザギザになった柱を撫でながら生返事をした。内容がどうというより、今は誰とも話したくない気分だった。
「うん!でサ、彼女、強い男が好きなんだって」
ボンの言葉に対して俺は適当にうなずいた。
目の前のヤツの言ってることより、昨日の出来事ばかりが頭を回っていた。
昨日の晩、じっちゃんとしゃべってた時、いきなり父さんに平手打ちにされたことが尾を引いている。頬に走った熱い衝撃を今でも忘れられない。
突然だった。父さんに頬を叩かれて、驚いて父さんの顔を見上げると、「馬鹿者。男は笑うな」と、冷たい顔で言われた。見たことがないような冷たい表情だった。
今までは厳しいながらも冷たくはなかったのに。
「なぁ、聞いてるのか?」
「…え?…ああ」
返事をしたものの、ボンの話なんて聞いてなかった。
ボンの顔を見る。
「も〜、聞いてなかったのかよ。あのサ、キミに暴漢役をしてもらいたいんだ」
ボンがそう言った時、じっちゃんが廊下の奥から出てきた気配がした。
「面白そうな話してるなぁ!ワシにもやらせなよ」
じっちゃんは座る俺をまたいで土間へ下りて草履をつっかける。
ボンは同時に立ち上がって頭を下げる。
「こんにちは!お邪魔してます。…えーと、クェトルのお父さんかナ?」
「お父さん?わははは!お父さんか!ワシはじいちゃんだよ。え?ワシ、そんなに若く見える?十二の息子がいそう?やだなぁ、まいったなぁ!あははは!」
じっちゃんは笑いながらボンの背中をバンバン叩く。
じっちゃんは若いと言われるのが一番好きだ。実際、周りの六十過ぎの爺さんなんかと比べても、じっちゃんは若い。五十にも見えないくらいだ。
「よし、ワシが作戦を練ってやるからな」
じっちゃんはすでにヤル気まんまんだ。
「わぁ、お願いしますヨ」
ボンもやらせる気まんまんだ。
俺は協力する気はないのに、勝手に話は進んでゆく。 ⇒
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