クェトル&エアリアル『霹靂の晴天』#4

(4)


 じっちゃんと、なぜかじっちゃんの友人のオヤジさんまで加わってボンの作戦に付き合うことになった。

 俺は物陰でじっちゃんとオヤジさんの活躍を見守っているだけだが。


「よ〜、兄ちゃん。かわいいネエちゃんつれてるね〜」
 打ち合わせどおりオヤジさんが言った。なかなか悪役ぶりが板についている。

 ホントにこんなことやってたんじゃないのか…口の周りにグルッと丸く墨で描いた泥棒ヒゲが似合っている。

「ネエちゃん、ワシらとも遊ぼうぜ」
 打ち合わせどおりじっちゃんがそう言ってルシアの腕を引っ張る。

 じっちゃんも口元を布で覆った怪しい覆面が似合っている。

 ものすごく怪しいオッサンらだ。ヘタすりゃ通報されかねない。二人ともボンの合わせた衣裳と演技指導でやってるだけだが、悪そうなゴロツキそのものだ。

「いやッ、やめてください!」

「嫌がってるだろ!やめろヨ!」
 ボンが打ち合わせどおり殴りかかる。じっちゃんとオヤジさんは殴られたフリをしてひるんだフリをする。

 まあ、こんな立派な大人二人が、いとも簡単にガキなんかにやられる辺りは演出に無理があると思うのだが…。

 まったく、くだらないし恥ずかしい。見ているだけで赤面するくらいだ。


 そうして二人は打ち合わせどおり撃退されて退散した。

「ありがとう。ボンって強いのね」

「そんなことないサ。キミのためならたとえ火の中、水の中!」
 クサ過ぎる。こいつら、演劇でもやったほうがイイんじゃないのか。駄作の舞台でも見せられたみたいな気分だ。

「どうだい?うまくいってるか?」
 俺のところへ戻ってきたじっちゃんが物陰から様子を覗く。俺は黙ってうなずいた。

「そうか。じゃあ、ワシらは帰るからな。お前さんは、もう少し見守ってやれよ」

「楽しかったぞ。またやらせてくれよ」
 じっちゃんとオヤジさんは仲良く帰っていった。もう夕方だし、二人で飲みにでも行くんだろう。

 いや、待てよ…もしかして、あの格好のまま行く気か?二人とも浮かれて自分の格好を忘れてるんじゃないだろうか。…まあ、イイか。


 さて、別に俺もこいつらを見守らなくたってイイだろ。と、俺も帰ろうとしたその時。

「おい、ガキ。きれいなネエちゃんつれてるじゃねえか」

「カ〜ノジョ、こんなボウヤじゃなくて、大人な俺らと大人の遊びをしようよ〜」

 チャラチャラした見るからに悪そうな男三人が来てルシアを取り囲む。

 ヤバいな。じっちゃんもオヤジさんも帰っちまったし、裏通りには人通りがない。

「や、やめろ!嫌がってるだろ」

「何、ボクちゃん、ヤルの?」
 本物の悪党らは下品な笑いを浮かべてボンをからかう。ボンと俺だけなら勝ち目はないだろう。

「てめぇら!やめろ!」
 その声に思わず目と耳を疑った。誰の声かと思やぁ…ルシアだ。悪党たちの前に立ちはだかり、キリっと悪党どもをにらみつけている。

「人がおとなしくしてりゃあイイ気になりやがってさ!女だと思って甘く見るなよ。調子に乗るんじゃねぇ!あたしを誰だと思ってんだい」
 タンカを切って、ルシアは道端に転がっていた箒をひっつかんで振り上げた。

 あまりにいきなりのことだから悪党どもも別の意味でひるんでいるようだ。

「殴られてぇのか?逃げるのなら今の内だよ!」

 悪党どもは怖い物でも見るようにルシアを見て、すごすごと逃げていった。


 風が吹き抜けた。近くのゴミ溜めでノラ犬が残飯をあさっているのが見える。

 細い路地の向こうにある大きな通りをゆく人波が見えるだけで、裏路地には俺たちの他には犬しかいない。


 ルシアは箒を投げ捨て、急にナヨっとしてボンにしなだれかかった。

「いやん……怖かったッ…」


 ボンも俺も目が点になったのは言うまでもない。





『霹靂の青天』おわり
《第3話へ、つづく》



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