(7)
ティティスを離れ、再びだだっ広い平原へと出た。
何キロほど歩いただろうか。少し高台になった所へさしかかった。どちらともなく立ち止まり、黙々と歩んできた道のりを身体ごと振り返る。
遠くの山にかたむく陽に照らされた、幻のようなティティスがたたずんでいる。ティティスにいたのは、まるで昨日、いや、幾日も前のことだったような気がした。
「なぁ…俺な、思うねんけどな」
かたわらのアルが口を開いた。
草原を走る風は、そよ風となって頬を撫でた。
アルはボンヤリと遠くを見つめていた。
「その絵もな、何も生きてる人らのトコにあったほうがエエとは思わへんねんけどな…」
つぶやきは渡る風へと溶けていった。煙みたいに薄い雲が茜色に染まり始め、たそがれが哀愁を深めていた。
高台からは、鳩の一団が群れをなして旋回し続けているのが見えた。鳩たちには在りし日の姿が見えているのかも知れない。
それは、あたかも街を、ティティスの廃墟を見守り続けているかのように思えてならない。
『肖像の鳩』おわり
《第4話へ、つづく》
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ティティスを離れ、再びだだっ広い平原へと出た。
何キロほど歩いただろうか。少し高台になった所へさしかかった。どちらともなく立ち止まり、黙々と歩んできた道のりを身体ごと振り返る。
遠くの山にかたむく陽に照らされた、幻のようなティティスがたたずんでいる。ティティスにいたのは、まるで昨日、いや、幾日も前のことだったような気がした。
「なぁ…俺な、思うねんけどな」
かたわらのアルが口を開いた。
草原を走る風は、そよ風となって頬を撫でた。
アルはボンヤリと遠くを見つめていた。
「その絵もな、何も生きてる人らのトコにあったほうがエエとは思わへんねんけどな…」
つぶやきは渡る風へと溶けていった。煙みたいに薄い雲が茜色に染まり始め、たそがれが哀愁を深めていた。
高台からは、鳩の一団が群れをなして旋回し続けているのが見えた。鳩たちには在りし日の姿が見えているのかも知れない。
それは、あたかも街を、ティティスの廃墟を見守り続けているかのように思えてならない。
『肖像の鳩』おわり
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