第4話『八つの秘宝』
▲作者より愛をこめて
一つ
人居ぬ館
絵のうらに
一つ
迷いの森
おさのきに
三つ
捻りたる街
いのさのご
二つ
顔の真中
とのしろに
一つ
赤き洞窟
くのしんに
《1.事の起こり》
糸の巣についた無数の水滴が光る様がキレイだとアルは言う。だが、そんなモンはちっともキレイだなんて俺は思わない。
光る水滴よりも先に、巣の主(あるじ)の八本ある長い足を思い出すからだ。想像しただけで身の毛もよだつ。まったく、恐ろしい。
俺が産まれた時、胞衣(えな)の上を八つ足が通ったんじゃなかろうか…そう思いたくもなる。
「水滴が光ってる美しい巣ぅながめるんもエエけど、実は俺、こっちのほうが好きやねん」
アルはヒヒヒと笑い、手近な植え込みの葉を小さくちぎって八つ足の巣に投げつけ始めた。もちろん、投げた無数の葉は糸にひっかかるだろう。
何とも悪趣味な奴だ。相手が八つ足とはいえ同情する。八つ足が焦って動く姿を見たくもなく、俺は目を背けていた。気持ちが悪い。あの動きを想像するとゾッとする。やめてくれ、想像などしたくもないのに。
「蜘蛛をいじめちゃ祟られても知らないぜ〜」
ボンが、さほど心配するふうでもなく言った。その生き物の本名を口にするのもやめてくれ。
「せやったら蜘蛛、この蜘蛛、とことんいじめたんねん、蜘蛛め!さあ、呪ってみ〜、蜘蛛蜘蛛!」
アルは嫌がらせのようにソレの名前を強調して連呼した。というか、ぜったい俺に対する嫌がらせだろ。
「じゃ、オレは、この棒キレで…」
悪ふざけをする馬鹿二人を放って帰ることにする。俺は二人に背を向けた。
「あ!待ってや!薄情やなぁ」
八つ足への嫌がらせを放置して二人は急いであとを追いかけてきた。
大通りを家のほうへと歩いていると、背中の中ごろまである長い銀髪の奴が前をゆくのが見えた。振り返りそうなイヤな予感が。
「クェトル〜」
案の定、そいつは立ち止まって振り返り、開口一番、笑顔で俺の名を口にした。
「あ!ジェンスやん。何してるん」
アルがジェンスに駆け寄る。
「ジェンスさん、こんにちは」
ボンも近づいて行って、ていねいにあいさつをした。
この中でボンだけはジェンスが国王の息子だということを知らない。ただ、あまりにも浮世離れした容姿と高貴さに一目置いているだけだろう。
「えーと、君はボン、だったよね」
ジェンスの言葉にボンは心底嬉しそうに何度もうなずいた。覚えてもらっているだけで嬉しいのだろう。
「そうそう、クェトル。ちょうど君の家へ行こうと思っていたところなんだよ。面白い物を図書館で見つけたから」
「おもろいもん?なになに?何なん?」
「うん。立ち話も何だし、クェトルの家へ行こうよ」
俺は良いも悪いも返事をした覚えはないが、三人はガヤガヤ言いながら勝手に俺ん家を目指して歩き始めた。
俺の家へ着くと、すぐに三人は「お邪魔しま〜す」とだけ言って勝手に居間へと入っていった。家の中から返事はない。じっちゃんは鍵を開けたまま留守にしているようだ。
食卓に一堂が着席すると、ジェンスは鞄から本を取り出した。
「これだよ。大発見なんだよ。これを図書館で見つけてね…」
ジェンスは本の背表紙を軽く叩いた。紫色の表紙には『麗しの薔薇色乙女白書』と金色の装飾文字で書いてある。何だか悪趣味で気持ちの悪い本だな。
ジェンスは紙が挟んであるページを開き、その紙を机の上へ提示した。紙切れには『宝の地図』という題名がついている。
…重要なのは本じゃなくて挟んである紙のほうかよ。
「宝の地図?!おもろそう!なぁなぁ、なに書いてあるん??」
「あのね、その名のとおり、宝のありかが記されているんだよ」
アルが立ち上がってジェンスの手元を覗き込む。
「すげ〜、ホンマに宝の地図やん」
「わぁ〜、面白そうだナ!」
ボンも身を乗り出した。
また変な話を持ち込みやがって。ただでさえ忙しいのに何が宝探しだ、バカバカしい。有閑バカ息子どもに付き合ってられるか。
くだらない話に関わりたくない俺が頬杖をついてヨソ見をしている間に、話は勝手に盛り上がりつつあった。
「ほら、ヴァーバル領の南西の外れ、ソト岬に建つ古城にある、と書いてあるんだよ。君たちは行きたくはないかい?」
「行きた〜い」
くだんの二人は勢いよく手を挙げ、声をそろえて言った。 ⇒
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