《6.キノコ島?》
どれくらい歩いただろうか。苔むした階段を踏みしめて上を目指すと、しだいに足下のぬめりが消えてきた。そして、灯光以外の光がかすかに見えてきた。
出口近くの、苔がびっしりついた岩の間からシダが生えていた。それが出入口をふさぎ、誰も出入りしないことを物語っている。
生い茂るシダをかき分けて外へと踏み出す。上がりきったそこには、まぶしい光があふれていた。
風になびく緑の草原が広がり、その波頭が波打って白く光りながら渡ってゆく。
見渡すかぎり高い山らしい影はない。ちょっとした丘と平原で構成されている。かなたには切り取ったかのように、急に始まる青い空があるだけだ。
気味が悪いほど静かで穏やかな場所だ。
「オイ、見てみろよ!」
ボンの言葉に振り返る。そこには今しがた出てきた洞窟の入口だけがこんもりとあった。その向こうは霧がかかったようにかすみ、その遥か眼下には広がる海が見える。
雲か霞の向こうに見え隠れする帆船が模型のように小さい。
「スゲーなぁ」
ボンは崖っぷち近くで感心している。
俺もボンの隣へとゆく。すぐ目の前は断崖絶壁で、目のくらむような高さだ。かなり遠くで濃紺の海が切り立った絶壁に打ち寄せているのが見える。岩にぶつかって白く砕けた波が尾を引き、再び紺碧に溶けてゆく。
見れば見るほど、ものすごい高さだ。突風でも吹きゃ落ちかねないな。
気がつくと、アルは素早く断崖の逆方向へ逃げ去っていた。かぶった帽子の広いツバを両手でつかんで座り込み、ツバの下から恨めしげな上目遣いで、こっちを見ている。
臆病な奴だ。そういや、高い所も苦手だったな。
「エアリアル〜、キミも来いよ〜!スゲーながめだヨ」
「くそバカヤロ〜ッ!ぜ〜ったいイヤやし〜〜ッ!そっちには死んでも行かんからな〜!」
遠くから叫びだけが風に乗ってやってきた。
「でも、この島のフチは、ぜんぶ崖なんだぜ?」
ボンが、からかうように言った。
「うるさいわ〜!俺は真ん中だけ歩くねゃ!」
「なぁ、キミも来いってば!イイながめだゾ〜。土産になるぜ」
ボンがアルを崖のほうへつれてゆくために近づく。
「アホ、バカ!来んなや!あっち行け、シッシッ!」
「こんな景色、めったに見れないんだからサ!もったいないぜ」
「しつこいなぁ!来るな言うとるやろ!来たら咬むで!」
アルは歯をむき出して威嚇している。うるさい連中だ。二人そろうと騒々しさの相乗効果がある。
騒ぎを尻目に、やけにウキウキと嬉しそうなジェンスが地図を手にして寄ってきた。腹立たしいほど足取りが軽い。
「さて、宮殿を目指すのだったよね?」
「ああ、そうだろ」
ジェンスの持つ本を何気なく横から覗く。地図のページのようだが、少し変な地図だ。ページいっぱいの大きな円の中に大きな五芒星が書かれている。
その星の頂点にあたる部分が小さく塗りつぶされ、その横に文字がある。どうやら、それが街などを示しているらしい。
「えーと、ここから宮殿までの長さと縮尺比から計算して…」
ジェンスはブツブツ言いながら指で地図を測っている。五芒星の中心には重要そうな印がある。
「島の幅が五十キロしかないね。えーと、ここが現在地だよ」
ジェンスは円の底を指差す。
「ここから宮殿まで約二キロかな。もう見えてるんじゃないかなぁ」
ジェンスは、さっき指した円の底から、ちょうど星の叉付近にある点までを指で尺取る。ジェンスは納得した表情で地図から平原に目線を移した。
「ほら」と言って指差した方角に目をこらすと、人工物らしい物の一部がかすかに見えた。手初めに進む方向が決まったようだ。 ⇒
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どれくらい歩いただろうか。苔むした階段を踏みしめて上を目指すと、しだいに足下のぬめりが消えてきた。そして、灯光以外の光がかすかに見えてきた。
出口近くの、苔がびっしりついた岩の間からシダが生えていた。それが出入口をふさぎ、誰も出入りしないことを物語っている。
生い茂るシダをかき分けて外へと踏み出す。上がりきったそこには、まぶしい光があふれていた。
風になびく緑の草原が広がり、その波頭が波打って白く光りながら渡ってゆく。
見渡すかぎり高い山らしい影はない。ちょっとした丘と平原で構成されている。かなたには切り取ったかのように、急に始まる青い空があるだけだ。
気味が悪いほど静かで穏やかな場所だ。
「オイ、見てみろよ!」
ボンの言葉に振り返る。そこには今しがた出てきた洞窟の入口だけがこんもりとあった。その向こうは霧がかかったようにかすみ、その遥か眼下には広がる海が見える。
雲か霞の向こうに見え隠れする帆船が模型のように小さい。
「スゲーなぁ」
ボンは崖っぷち近くで感心している。
俺もボンの隣へとゆく。すぐ目の前は断崖絶壁で、目のくらむような高さだ。かなり遠くで濃紺の海が切り立った絶壁に打ち寄せているのが見える。岩にぶつかって白く砕けた波が尾を引き、再び紺碧に溶けてゆく。
見れば見るほど、ものすごい高さだ。突風でも吹きゃ落ちかねないな。
気がつくと、アルは素早く断崖の逆方向へ逃げ去っていた。かぶった帽子の広いツバを両手でつかんで座り込み、ツバの下から恨めしげな上目遣いで、こっちを見ている。
臆病な奴だ。そういや、高い所も苦手だったな。
「エアリアル〜、キミも来いよ〜!スゲーながめだヨ」
「くそバカヤロ〜ッ!ぜ〜ったいイヤやし〜〜ッ!そっちには死んでも行かんからな〜!」
遠くから叫びだけが風に乗ってやってきた。
「でも、この島のフチは、ぜんぶ崖なんだぜ?」
ボンが、からかうように言った。
「うるさいわ〜!俺は真ん中だけ歩くねゃ!」
「なぁ、キミも来いってば!イイながめだゾ〜。土産になるぜ」
ボンがアルを崖のほうへつれてゆくために近づく。
「アホ、バカ!来んなや!あっち行け、シッシッ!」
「こんな景色、めったに見れないんだからサ!もったいないぜ」
「しつこいなぁ!来るな言うとるやろ!来たら咬むで!」
アルは歯をむき出して威嚇している。うるさい連中だ。二人そろうと騒々しさの相乗効果がある。
騒ぎを尻目に、やけにウキウキと嬉しそうなジェンスが地図を手にして寄ってきた。腹立たしいほど足取りが軽い。
「さて、宮殿を目指すのだったよね?」
「ああ、そうだろ」
ジェンスの持つ本を何気なく横から覗く。地図のページのようだが、少し変な地図だ。ページいっぱいの大きな円の中に大きな五芒星が書かれている。
その星の頂点にあたる部分が小さく塗りつぶされ、その横に文字がある。どうやら、それが街などを示しているらしい。
「えーと、ここから宮殿までの長さと縮尺比から計算して…」
ジェンスはブツブツ言いながら指で地図を測っている。五芒星の中心には重要そうな印がある。
「島の幅が五十キロしかないね。えーと、ここが現在地だよ」
ジェンスは円の底を指差す。
「ここから宮殿まで約二キロかな。もう見えてるんじゃないかなぁ」
ジェンスは、さっき指した円の底から、ちょうど星の叉付近にある点までを指で尺取る。ジェンスは納得した表情で地図から平原に目線を移した。
「ほら」と言って指差した方角に目をこらすと、人工物らしい物の一部がかすかに見えた。手初めに進む方向が決まったようだ。 ⇒
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